初診時のおもな仕事は、治療計画の立案と説明です。歯ぐきがはれて痛みがあるときは、切開や排膿による緊急処置を優先させますが、基本的な処置として、超音波スケーラーを使って全体の歯石除去(スケーリング)を行います。初診時のスケーリングは通常麻酔を使いませんので、深いところにある歯石は取れませんが、全体の大掃除をすることにより、歯ぐきの痛みや出血、知覚過敏や口臭などが大きく改善されます。歯ぐきの炎症程度に比例して、多くの場合は大量の出血をともないます。

若いころ、もしくは歯周病の症状が軽いうちは、このスケーリッグだけで十分汚れは除去できますが、歯槽骨の破壊がある程度
進んだ状態では、歯周ポケット内の汚れをすぺて取りきることはできません。ポケットに面した歯根にプラークや歯石が付着すると、その一部がセメント質の中に入り込んで、根の表面はサラサラになります。このような悪いセメント質を取り除いて根面をつるつるにし、ふたたび汚れがたまらないようにするのが、「SRP」(スケーリング&ルートプレーニング)と呼ばれる処置です。スケ-リング同様、一般的に超音波スケーラーや手用スケーラーを使用して取り除きますが、より深い部分をていねいに掃除するために、局所麻酔を使って上下の奥歯と前歯を6回に分けて行います。

さらに、歯槽骨の破壊が大きく、歯周ポケットが深い場合には、スケーリングだけで歯石を取り除くことは不可能です。このよう
な場合には、歯ぐきを切って、めくって、直接目で確かめて歯石を取り除きます。歯石除去の最終手段として、「Fop」(歯肉剥離
掻賭術)をはじめとした外科的手段を行使します。

歯周病治療の基本は、歯周ポケット内にたまった歯石をはじめとしたもろもろの汚れを除去することと、常に汚れのない環境を維持することです。完璧に実践することができれば、炎症はまったく起こりませんので、歯槽骨破壊も完全にストップしてしまう
はずです。現実問題としで完璧"は不可能だとしても、ほぽ完全にストップさせることは可能です。

歯みがきの習慣は完全に定着していますが、いままで歯周ポケット内の汚れにはまったく無頓着だったといっても過言ではあり
ません。それでも50年近く歯は使えているわけですから、月に一度でも子どものころから歯周ポケット内の汚れを取る習慣が定着すれば、80年程度で未期の甫周病になることはありません。

すでに歯槽骨が破壊されていても、歯槽骨欠損が半分以下であれば、コントロールは十分可能です。歯槽骨欠損が3分の2を超えて、放置しておけば1年ほどで抜けてしまいそうな歯であっても、歯周ポケット内の清掃を根気よく続ければ、10年以上延命することも可能です。また、現状維持とはいうものの、レントゲン的に骨を失ったように見えても、周囲にわずかでも健康な骨が残っていれば、その骨レベルまで歯槽骨が回復してきます。

歯周病の治療を始めるにあたって必要なことは、現状の把握と将来の予測です。過去数年間における進行速度の推測から、未期になると加速することを加味して、そのまま放置した場合の予測をたてます。通常は20歳前にあったであろう健康な骨の位置と、現在の骨の位置を比較して、10年単位で喪失した骨の量をレントゲンから読み取り、各歯牙の治療方法を計画していきます。

生体の摂理として、健康な骨と骨に囲まれた一定範囲内の空間には、健康な骨ができます。もっとも簡単で確実な歯槽骨再生方法として、炎症を起こして骨破壊の原因となっている歯を抜歯すれば、周囲に残った健康な骨レベルまで歯槽骨は再生されます。インプラント治療が信頼できる歯牙再生療法となったいま、歯槽骨が破壊されつくす前に抜歯を検討する価値が高まったといえるでしょう。

一方、自家骨移植は臨床的に有効な方法であり、骨増量法のゴールデンスタンダードといわれています。抜歯しても必要な骨量が確保できないと予想される場合などにも有効です。しかし、自家骨を採取するためにはほかの場所を傷つけることになるうえに、採取できる骨の量に限界があることが問題です。インプラントを行うにあたって、必要な骨量がない場合の増量方法として、「仮骨延長法」も有望な選択肢とされています。これらの方法に加えて、将来的には「BMP」(骨形成タンパク質)に代表される骨誘導因子の応用や、幹細胞からの骨細胞培養・増殖など、有望な再生療法が研究されています。

一方、歯周病によって破壊された歯槽骨を、歯を抜かないで再生させる試みとして、「歯周組織再生法」(GTR)や「歯周組織再生誘導材料」(エムドゲイン)を用いる方法などがあり、ある特殊なケースにおいては再生可能です。しかし、広範囲に歯槽骨が破壊された場合、歯周病によって侵され、歯槽骨の再生を拒む歯根の処理方法が確立されていない現状では、原則として骨再生は不可能な状況です。

歯髄の炎症が波及して破壊された根失部分の骨は、適切な根管治療が行われれば再生されます。歯周病によって破壊された骨も、侵略をまぬがれて完全に破壊されつくしていない部分には、骨の再生が期待できます。しかし、歯周病により完全に破壊されつくした部分については、歯石を除去しても原則として骨は再生されません。歯周病未期に起こった神経の死は、弱りきった歯に大きなダメージを与えます。根尖病巣による骨破壊と、歯周病による骨破壊が完全につながってしまう前であれば、根管治療により根尖部分の骨が再生するので、かなりの延命が期待できます。しかし、完全につながってしまうと骨の再生は期待できず、延命することもできなくなってしまいます。したがって、できるだけ早い時期に神経の死を確認して、できれば神経の死を予知した時点で根管治療を行う必要があります。

 

初期の歯周病は、歯ぐきがたまにはれたり、赤く充血したり、歯ブラシに血がにじむ程度です。歯周ポケットができ、歯周組織の破壊が始まると、歯が浮くような感じがすることもあります。この時期の知覚過敏は、知覚過敏抑制剤の塗布や歯石の除去によって改善する可能性があります。

炎症がさらに深く進んで、歯を支えている歯槽骨の破壊が進む中期の歯周病になると、歯ぐきがやせてブヨブヨになり、歯がぐ
らつき始め、食ぺ物が歯にはさまりやすくなったり、硬いものがかみにくくなったりします。簡単なことですぐ出血し、膿もでるようになりますので、口臭が気になるようにもなってきます。

やがて未期の歯周病になると、歯槽骨がほとんどなくなり、歯の根が大きく露出します。歯はぐらぐらし、痛くてほとんどかむことができなくなってしまいます。この時期に見られる知覚過敏は、特に注意が必要です。知覚過敏抑制剤の塗布や歯石の除去も
ほとんど効果が見られず、症状は改善するどころか、ますますひどくなる一方です。

結果的には、この時期に歯の神経を取ってしまうぺきなのかもしれませんが、神経を取ったあとのもろもろのトラブルを考える
と、虫歯もないのに神経を取ることに抵抗を感じます。

 

虫歯もないのに歯がしみる、いわゆる知覚過敏(象牙質知覚過敏症)の症状は、比較的早い段階から歯周病の症状としてアラームを鳴らし始めます。知覚過敏は、歯周病によって歯を支える骨が破壊された結果、歯肉が後退して歯根面が露出したために起こると一般にいわれています。誰にでも見られる症状のわりに、原因の特定があいまいで、根本的な治療方法も確立されていないので、やっかいな病気です。

知覚過敏は、歯周病に侵された象牙質部分が異物と判断される状態に変質し、その象牙質に接している歯の神経に炎症が起きているものと推測されます。そこで対処療法としては、露出した根面に有機質を凝固させる薬を塗って症状をやわらげるとともに、歯髄側に第2象牙質のバリケードを築きます。当面の間題を解消する一方で、歯周病のさらなる拡大を食いとめることが最善の策です。

歯周病の進行を抑制するもっとも効果的な治療は、露出した歯根面や歯周ポケットにある歯石をはじめとする汚物を、徹底的に
除去することです。症状が軽いうちは、初診時に一度歯石除去をするだけで、歯ぐきの痛みや知覚過敏が劇的に軽減します。ところが、異物とはいえ歯根面にこびりついた歯石は、外部からの刺激をシャッタアウトするバリケードの役目もはたしているのです。そのバリケードを除去することは、除去する際の刺激とあいまって、一時的とはいえ知覚過敏を増幅させてしまうこともあります。

長期的にみると、歯周病のコントロールが徹底するにつれて、知覚過敏は過去の思いでになってしまうのですが、治療直後に誘発される知覚過敏は、治療後の歯肉退縮とともにやっかいな問題です。歯周病を放置した場合に生じるより深刻な事態と比較して、理性的に納得していただくしかないと思います。

歯周病は発症しても痛みがないため、自覚症状のないまま進行し、気がついたときには取り返しのつかないこともあることから、「沈黙の病気」とも呼ばれています。しかし現実には、比較的初期の段階からさまざまな警告を発しているのです。

早ければ10代前半から、歯ぐきは赤みを帯び、歯みがきのときに出血したり、リンゴなどをかじると血がついてくるようになります。また、疲れたときに、知覚過敏になったり歯が浮いた感じがすることがあります。

30代になって歯ぐきがやせた感じがするのは、それだけ「歯を支えている歯槽骨が破壊された」という警告です。さらに症状が進
むと、出血だけでなく歯ぐきから膿も出始めるようになり、歯周病特有の口臭が気になります。歯がぐらつき、硬いものがかめな
くなったりするのはそのあとです。

 

虫歯の痛みに並んで多いのが「歯ぐきの痛み」です。歯周病の代表的な症状ですが、ほかにも原因はいろいろと考えられます。歯と歯ぐきの境目に小さな虫歯ができた場合、虫歯が直接痛むわけではなく、虫歯にたまった汚れによって歯ぐきに炎症が起こります。虫歯によって神経の死んでしまった歯も、その腐った神経に触れている根尖部の骨に炎症を起こします。クラウンやインレーを装着した際に歯と歯ぐきの境目に取り残してしまったセメントも異物と判断されて、歯石同様に炎症を起こします。

ブリッジのようにほかの歯と連結されたクラウンは、セメントが破壊されて脱離してもすぐには外れません。歯とクラウンのすき間にはだ液や血液が入り込み、腐ってしまいます。その汚物に触れている歯ぐきに炎症が起こります。また、レントゲンに写ら
ないような亀裂が歯根に入った場合も、その亀裂に汚物が貯留して亀裂付近の骨や歯ぐきに炎症が起こります。神経を取ったあと、根尖部の閉鎖が不十分な歯も同様にそのすき間に汚れがたまって、根尖部に炎症を起こします。

 

体の異常を自分に知らせるためのアラームをたくみに利用して、その異常をその都度修復することができれば、いま以上に健康を保つことができます。違和感や痛みを感じるということは、かならずなにか原因があるはずです。「歯が痛い」というアラームを感じたとき、まず思い浮かぶのが虫歯です。虫歯の痛みは歯髄の炎症です。歯髄に炎症が起こるほどの虫歯であれば、レントゲンを見れば比較的簡単に見つけだすことができます。

ただし、歯の神経は、かぎられた血流とかぎられた空間の中で生活していますので、回復させることは難しいのです。ですから、もっと初期の段階で適切な処置をしておく必要があります。[最近、硬いものがかめなくなった]といえば歯周病を思いだすでしょう。原因はほかにもいろいろありますが、本当に歯周病だった場合はもう手遅れなのです。抜歯もしくは多少の延命処置を行うのがせいぜい、という状態なのかもしれません。

 

痛みは、体の内部あるいは外部から危害が加わったときに生じる不快な感覚ですが、体の異常を自分に知らせるためのアラームとして、とても大切な役割を担っています。日常生活で感じる痛みのうち、外部からの危害に対しては瞬間的な痛みを感じ、防御反射が無意識のうちに起こります。

病院を訪れるほとんどの人には、どこかが痛いために「病気かな?」という思いがあります。痛みは病気の重要なサインなのです。通常は痛みの中心部分に病気がひそみ、痛みの強弱と病気の程度が比例しています。痛みの場所や種類によって、病気の特徴が浮かび上がってきます。「急性痛」と呼ばれるこの痛みは、通常病気の治癒とともになくなり、自然に安心感をもつようになります。

私たちが感じる痛みのもとは、炎症と呼ばれる生体防御反応の1つで、みずからの体を守るための機能として備えられています、もしこの痛みが起こらなかったとしたら、私たちは自分の体の異常に気づくことができず、すでに傷ついている患部をさらに傷つけてしまうかもしれません。体の組織が刺激を受けて炎症を起こすと、刺激された部分の未梢血管が広がって血流が増えます。血液には傷ついた組織を修復してくれる成分が含まれているので、血流が増えることで患部の修復力が高まります。その結果、炎症を起こしている一部分に血液が集中するため、「赤み」や「発熱」「はれ」が起こります。また、こうしたはれや痛みによって、その部分が動かしにくくなる「機能障害」が見られることもあります。

痛み、赤み、発熱、はれ、機能障害の5つの症状は「炎症の5大兆候」と呼ばれるもので、炎症を示す特徴的な症状だといえま。す。